エレーナは、穏やかにプリシラを説得をし続けたものの、強要はしなかった。
プリシラの気持ちを良く理解し、尊重したからだ。
そして、こう言った。
「シュウ君の言っている事が納得出来ないのなら、私を信じるというのはどうですか?」
先輩で、指導教官でもある、エレーナならきちんとフォローしてくれるだろうと、プリシラは、ようやく応じた。
「なつみさんが早く復学出来ますように」
シュウが静かに願うと、エレーナの能力が発動し、暖かい光が、その場にいた3人を包みこんだ。
ところが、光が途中で消えてしまった。
願い事がエラーして叶わなかったのだ。
「途中で能力の発動が止まった」
エレーナは思わず自分の体を見回した。どこにも異常はない。
「そんな、願い事がエラーするなんて……」
プリシラも通常ではありえないことに驚く。
「何が起きたんですか?」
シュウは願い事がエラーしたとは知らない。
「シュウ君、今のは失敗だったので、もう一度願ってくれませんか?」
再び、エレーナの能力が発動した。
今度は願いが叶い、エレーナもプリシラもほっとした。
それにしても、なぜ1度で願いが叶わなかったのか?
エレーナにとって、このような不可解な事態は初めてだった。
エレーナはその時、まだ願い事が叶いにくくなった本当の理由など知る由もなく、むしろ、シュウの前向きな様子に楽観的に構えていた。
誰よりも優しく、清らかな心を持ち、普通の人なら気づかないような他人の苦しみや悲しみまで敏感に感じ取ってしまうシュウ。
エレーナはシュウを優しく見つめていた。
シュウはどんな時も冷静に対処してきた。
生前の宮原慎一もさまざまな困難を適切に乗り切った。
宮原慎一の生まれ変わりのシュウなら、うまく問題を解決してくれるはず。
エレーナは、ふたりを重ね合わせながら、そう信じていた。
 
 それからなつみの停学が解除されたのは、間もなくの事だった。
だが、なつみが刀でシュウとエレーナを襲い、エレーナを斬りつけた事件は、学校中に知れ渡る由となり、なつみに近づく者は誰もいなくなっていた。
なつみが廊下を歩いていると、みんな恐がって逃げる。
そして、陰でヒソヒソなつみの事を噂するようになった。
「ねー、聞いた? あの人、同級生の知人を斬りつけたんだって」
「嫌だー、恐い」
なつみは、そのたびに噂をする生徒達を睨みつけた。