あれだけご主人様にひどい事をしたのに。
あの人のせいで、エレーナさんは死にかけたんですよ!」
プリシラは、怒りが収まらない。
「プリシラさん、落ち着いて。私はあんな事で死んだりはしませんから」
エレーナは、プリシラとは対象的に、むしろ不思議なぐらい落ち着いている。
「でも……」
プリシラは納得が行かない。
「エレーナさんもご主人様に何か言って上げて下さい」
エレーナは、静かなままだ。何か、シュウの方から言葉を発するのを待っているかのように。
シュウがその重い口を開いた。
「これは、なつみさんにとって必要な事だからです。
なつみさんは、苦しんでいるんだと思います。
今、なつみさんを孤立させてはならないと思います。
だから、僕は自分なりに出来る事をやっているんです。
近じか、学校の遠足があります。 遠足はクラスのみんなが仲良くなる良い機会。
なつみさんをクラスのみんなと仲直りさせたいんです。ですから、何としてもこの日までになつみさんが登校出来るようにしたいんです」 
そして、真剣な表情でエレーナやプリシラと向き合い、こう言った。
「ふたりともお願いです。どうかなつみさんのために力を貸して下さい」
エレーナが静かに立ち上がった。
「私、シュウ君に協力します」
「ちょっと、エレーナさんまで。貴方、斬られたんですよ」
プリシラは、エレーナの言葉が信じられず、自分の耳を疑いたくなった。
「分かっています。でも、シュウ君の言う通りこのままじゃいけないと思うんです」
エレーナは、シュウに問題解決を任せてみようと思った。
「ありがとうございます」 
シュウは、エレーナに感謝した。そして、遠慮がちにこう言った。
「あの、お願いがあります。先生方が早くなつみさんを許してくれるようにしてほしいんです」
「そんなの絶対だめ! 今、学校が平和になっているのは、なつみさんが停学になっているから。
あの人が来れば、また何されるか分かりません」
プリシラは猛反対した。
「なつみさんは、もうこれ以上悪い事はしませんよ。あの人は敵じゃありません」
シュウは微笑んだ。その表情には、自信すらうかがえる。
「どうして、そんな事が分かるんですか?」
「シュウ君には、何か深い考えがあるのだと思います。
 私は、シュウ君を信じてみようと思います。貴方も信じてみませんか?」