白川シュウは幽霊だった。
シュウの正体を知った柚原なつみは、柚原家に代々伝わる、護身刀を眺める。
鏡のように研ぎ澄まされた刀が、なつみの顔を映し、それはまるで彼女の内面までも映し出すかの様だ。
どんな悪霊でも斬り裂くと言われる護身刀。
それは、なつみを守るようにと、剣術少女、一ノ瀬真紀に託された物だ。
なつみは静かに刀をさやに収めた。
背後から、声がした。
なつみが振り返ると真紀が立っていた。
「その刀がどうかされたんですか?」
なつみは無言のまま立ち上がり、真紀の顔を見ないように部屋を出ようとした。
その眼は、見る者を容赦なく斬りつけるほどするどく殺気立っている。
それは、なつみの決意、そして手段を選ばぬ強硬策を暗示していた。
なつみの眼から、真紀はその異変に気づいた。
「まさか、白川を斬るつもりですか!」
真紀は、刀にしがみついた。
「なつみさん、いくら何でもまずいですよ。学校で刀を振り回すなんて」
「放して!」
なつみは、幽霊退治をすべく真紀の制止を振り切った。
「あいつは悪霊よ。それに市川さんも。
この学校が、化け物だらけになってもいいの?」
もはや、ここまで来ると、聞く耳を持たない。
なつみは、学校に乗り込んだ。
「市川さんを餌に、白川をおびき出す。
まずは、市川さんを体育倉庫にでも閉じ込めて」
「本気でやるんですか!」
真紀は仕方がなく、まなみを誘き出すことにした。
「なつみさん、昔はあんなんじゃなかったのに……」
白川シュウ退治の準備を進めながら、そうつぶやいた。
その時真紀は、昔の事を思いだしていた。 
 
 なつみと真紀は幼なじみ。
なつみは、母親が自分を妊娠中に母子共々父親に捨てられた。
真紀も幼い頃、父親に捨てられ、母親とふたりで苦労してきた。
父親に捨てられ、大人の都合でたらいまわしにされ、似たような境遇のふたり。
だから、ふたりは大の男嫌い。
 
 幼少の頃、真紀は弱虫で、しょっちゅういじめられた。
なつみは、真紀を身を挺して守った。
時には、男子5人相手にズタボロにされても立ち向かっていったこともあった。
真紀は、自分のために傷だらけになったなつみを見て泣いた。
真紀は、そんな強くて正義感あふれるなつみに憧れた。
いつしか強くなって、今度は自分がなつみを守れるようになりたいと強く思うようになった。
だから、剣術を始めた。