なつみは、事あるごとに食ってかかる。
そしてさらにこう言いだすようになった。
「私、天使は嫌い。天上界は信用しない!」
「どうして、なつみさんは、ご主人様や私達を毛嫌いするのでしょうか?」
シュウやエレーナ達に何の落ち度もない。
シュウが男だから嫌いというだけでは、理由としては不十分。
プリシラは到底納得がいかない。
「なつみさんが私達を嫌うのは、きっと何か訳があると思います」
エレーナは腹を立てるどころか、むしろ、なつみが自分達を嫌う理由が気になる。
「エレーナさんもそう思いますか?」
「ではシュウ君も?」
シュウは静かにうなずいた。
「僕には、なつみさんが何かにもがき苦しみ、助けを求めるサインに思えるんです」

 シュウ君、貴方はやはり慎一さんの生まれ変わり。
誰よりも清く済んだ心を持っています。
でも清らかな心を持っているだけじゃそこまで感じ取れないと思います。
なぜ?
エレーナは、またシュウを見つめている自分に気がついた。
 
「ふたりともどうかしています。どうして柚原さんの事をそこまで心配するの?
柚原さんは、ご主人様や、私達に散々嫌な思いをさせているんですよ」
プリシラは、ふたりの気持ちが理解出来ない。
エレーナはしばらく目をを閉じ、それからゆっくりと目を開き、プリシラにこう問うた。
「感じませんか? なつみさんの苦しい悲鳴のようなものを」
プリシラは、首を横に振った。
「なつみさんは、きっと苦しんでいるんだと思います。
きっと何かが、なつみさんを絞めつけているような気がしてなりません。
それが何なのかは分かりませんが……
なつみさんはきっと、誰かに助けを求めている。
けれど、声を上げられない。私にはそのような気がしてならないんです」
エレーナは何かを感じ取っていた。
  
 夜、学生寮、柚原なつみの部屋。 
なつみは、何が何でもシュウを学校から追い出そうと必死で考えを巡らせる。
しかし妙案は浮かばない。
なつみは、プールでの事を思い出していた。
宙を移動するモップやブラシ、さらに、プールに落ちてシュウに引き上げられた時の、あのふわっとした空を飛ぶような感覚……
そして、シュウに抱きかかえられた時の感触の無さ。
シュウは一体何者?
なつみは、そばでテレビを見ていた一ノ瀬真紀に、プールでの奇妙な体験を話した。
すると、真紀の表情が大きく変わった。