そして、エレーナは少し間を置いてから、こんな不思議な事を言った。
「なつみさんには、きっと何かあるんだと思います
私、感じるんです。今のなつみさんから、何か悲痛な叫びの様なものを……。
なつみさんは、自分でも気づかないうちに、きっと誰かに助けを求めているんだと思います。
それが何なのかは分かりませんが」
「エレーナさんも僕と同じ事を考えていたんですね」
それは、シュウの思いがけない一言であった。
普通の人では気づかないような、私達天使にしか感じ取れない、見えない他人の
苦しみや悲しみ、そしてさまざまな想いを、人間でありながら、敏感に感じ取ってしまうシュウ……
誰よりも清く済んだ心……
エレーナはシュウの言葉に驚き、つい彼を呆然と見つめてしまっている自分に気づいた。
そして、改めてシュウの清らかさに触れたような気がしたのだった。
エレーナは、少し間を置くとシュウがなつみの事をどう思っているのか、聞いてみた。
「あの、シュウ君はなつみさんの事をどう思っているんですか? 
さっきの授業で好きとか言っていましたよね?」
「あれは、絵を描くときは、モデルとなった人、動物、風景でも一時的に好きになるんです。
というか、好きになるように努力していると言った方がいいかな。
その方が、好きではないものでも良く描けると思うんです」
「そうだったんですか」
そうやって、クラスに少しでも打ち解けようと努力しているシュウの直向きな姿にエレーナは感心した。
それと同時に、シュウがなつみを好きじゃない事が分かり、エレーナは、心の中で納得、ほっとした。
 
 放課後、教室になつみが、独り残っていた。
辺りの様子を伺い、誰もいないのを確認すると、シュウに描いてもらった絵を取り出した。
なつみの表情が少しほころんだ。
その時、教室の戸が開き一ノ瀬真紀が入って来た。
なつみは慌てて、絵を机の中へ。
「あっ、なつみさん、さっきの絵、見ていたんですね?」
「なっ、何。あんたには関係ないでしょ」
「別に、隠す必要なんてないですよ」
真紀は、机の中に手を伸ばし、絵を取り出した。
「こらっ、返して!」
なつみが奪い返そうとするものの、真紀はそれをかわした。
「私、分かりますよ。なつみさんも、本当はこの絵、いいなって思っていたんじゃないですか?」
「何よ。私こんな顔していない!」
相変わらず、全て否定する。