「あの、私じゃだめかな?」
さりげなく、やや遠慮がちに打診してみる黒川。
「はい。宜しくお願いします。でも僕、絵はあまり自信が無いんです」
「私もよ」
描き始めるふたり。
鉛筆を走らせる音がしばらく続いた。
やがて、シュウが絵を描き上げると、
「出来たの? 見せて」
黒川は、シュウのスケッチブックに手を伸ばす。
「これは、その……」
シュウは、スケッチブックを抱きかかえて恥ずかしがる。
「あまりうまく描けていないから」
そこへ、美術の教師が来た。
「出来たんでしょ?」
教師の手がスケッチブックを差し出すように要求している。
シュウは、渋々と差し出した。
どんな事を言われるのか、シュウは教師の顔色を伺ってばかりだ。
「これ、すごく良く描けているじゃない」
教師はシュウの作品を絶賛。
「これ、白川君の作品です。みんなも見て下さい」
生徒たちが注目する。
「この作品からは、モデルに対する思いがひしひしと伝わってきます」
「僕、絵を描くときは、相手を大切に思うようにしているんです」
シュウは少し照れる。
「そういうやさしい気持ちが、良い作品を創り出すんですね」
教師はさらに褒めたたえる。
「先生、私も白川君に描いてもらっていいですか?」
「ええ」
「じゃあ、私も」
次々にリクエストが殺到。
シュウもこれは描くしかないと腹を決め、
「あっ、慌てないでください。ひとりづつ順番に描きますから」
シュウはひとりひとりに丁寧に応えた。
「うわー上手。白川君がこんな特技あるの知らなかった」
それを見ていた、なつみは、唇を固く結びシュウを横目で睨みつけた。
すっかり人気者のシュウに面白くない。
ちょっとぐらい絵が描けるからっていい気になるなと思っていた。
そんななつみのもとへ、クラスメイト達が来た。
「ほら、貴方も描いてもらいなさいよ」
一生懸命、シュウの絵のモデルになるよう説得する。
「何言ってんの! 何であんな奴なんかに」
「私達も描いてもらったのよ」
そう言ってなつみに絵を見せる。
「ねっ、だから貴方も来なさいよ」
クラスメイト達は、なつみの腕をつかむと無理やり引っ張った。
「わっ、何するの!」
そのまま、シュウの前に座らせた。
「白川君、柚原なつみさんも描いてあげて」
シュウは、快く引き受けた。
なつみは、渋々シュウのモデルとなった。
「ちゃんと描きなさいよ」