「どうするんですか、ご主人様! あんな事言っちゃて」
プリシラは、気がきじゃない。
「そうですよ。真紀さんは絶対本気でしたよ」
エレーナもシュウが心配でたまらない。
「皆さん、心配しないで下さい。僕に考えがあります」
シュウのその表情は自信に満ちていた。

 次の日、体育館になつみ、真紀らが集まっていた。
シュウが、見知らぬ女を連れてやってきた。
20代と思われるその女は、唇を頑なに閉じたまま一言も喋らない。
「誰? この人」
なつみ達がざわつき始めた。
「今日は一ノ瀬さんのために、コーチを連れてきました」
その女は中沼といい、シュウの執事を務める。
そして、シュウの幼少期からの、武道の師匠だ。
白川家は文武両道で中沼にシュウを鍛えさせてきた。
「中沼さんの強さは半端じゃないですよ」
シュウは余裕の表情だ。
真紀と、中沼が向き合った。
「始め!」
そして、号令の合図とともに走り出すふたり。
真紀と、中沼の木刀が激突。
そして、木刀と木刀が激しくぶつかり合う音。
「ご主人様の考えってこれだったのですね」
プリシラは感心した。
「中沼さんを連れてくるように、お母さんに頼んでもらったんです」
さらに激しくふたりはぶつかり合った。
「何だ、この女。ただものではない強さだ」
真紀は中沼の強さに恐れすら感じた。
しばらく互いに譲らなかったが、ついに中沼の木刀が真紀を突いた。
「勝負あり!」
「そんな、真紀が負けるなんて」
なつみは悔しがった。
「負けた」
中沼に圧倒された真紀はいまだにショックを隠しきれない。
今のは序の口で、この女の本当の強さはこんなものじゃない。
中沼はそんな気がした。