エレーナは、グラシアにウォーターランドの街を案内させた。
やがて、天使達の業務用の宮殿にたどり着いた。
数名の天使達がエレーナを出迎え、一行は宮殿の庭園へと向かった。
庭園では天上界にあるのと同じ様な巨大樹がエレーナを待っていた。
「これは!」
エレーナは思わず声を上げた。
葉はひどく黒ずみ、枝はしなやかさを失い、枯れかけているウォーターランドの巨大樹。
「なぜ、人間社会は荒廃したのですか?」
エレーナの問いに、
「行き過ぎた経済活動のせいね」
グラシアは、巨大樹を見上げながらそう答えた。
その時、突然巨大樹の一番太い枝が折れ音をたてて地面に落ちた。
「これはもしや!」
グラシア達の顔色が変わった。
グラシアの元へ別の天使が走り寄り、何か伝えている。
その場に緊張が走った。エレーナも何か胸騒ぎのようなものを感じ取っていた。
そして、グラシアの次の言葉を皆が待った。
「最後の清らかな心を持った契約者が亡くなられた」
「でも、清らかな心を持った人間は、探せばどこかにきっといると思います。
まだ諦めないでください。私も何かお役に立てる事があればお手伝いします」
エレーナは希望を捨てなかった。
グラシアは寂しそうにこう言った。
「ありがとう、エレーナ。でも、分かっているの。これ以上の存続は無理だって。
ウォーターランドはこれでおしまいね」
そう言うと、グラシアはエレーナに杖を向けた。
「貴方がここに来たのも、きっと何かの縁ね」
私達は最後の力を振り絞って貴方だけは護り、天上界へ届ける」
グラシアの杖が発する光がエレーナを包む。
「グラシアさん!」
ウォーターランドの巨大樹が轟音とともに倒れていく。
「行きなさい! エレーナ。貴方にはまだ信頼出来る人達がいるでしょ。
貴方は天上界を絶対護って!」
エレーナの体は宙に浮き、グラシア達から次第に遠ざかって行く。
「グラシアさーん!」