天上界へ一時戻ったエレーナは石碑のような物を見つけた。
「これは!」
エレーナは石碑に近づいた。
石碑には文字が書かれている。
ウォーターランド……
その時、石碑に異変が。
「えっ、何が起きたの!」
エレーナは悲鳴と共に石碑に吸い込まれるように消滅した。
「ここは!」

 気がつくと、エレーナは見知らぬ場所にいた。見た事の無い街並みに人影はない。
「あら、見かけぬ顔ね」
と、背後から声がし、エレーナが驚いて振り返ると、一人の天使がそこに立っていた。
その天使はエレーナを眺めながらこう言った。
「上級クラスの天使のようね」
「いえ、私はまだ中間クラスです」
エレーナは首を横に振った。
「でも、貴方からは上級クラスの力を感じるわ」
天使は、エレーナの能力を感じ取った。
彼女の名はグラシア。上級クラスの天使だ。
上級クラスの天使は他の天使の実力を見極められる。
エレーナは周囲を見渡しながら、
「どうして誰もいないんですか?」
「以前このウォーターランドでは、人も天使も仲良く暮らしていた。
私達天使の生命と能力の源である巨大樹は、人間の清らかな心が発する力で成り立ってい
た。
でも人間社会の荒廃で清らかな心を持つ人間がほとんどいなくなり、巨大樹の生命力が著
しく低下した。
天使達も力なき者から次々と消え、今じゃ私も含め数名が残るばかり。
この世界は何時まで持つことやら……」
(それって天上界と同じじゃ……)エレーナはそう思った
グラシアの話によると、天使からの恩恵を受けられなくなった人間達は皆、この地を見捨
て、よそへ行ってしまったのだという。
「それはひどいです」
元々この国は人間と天使が共に暮らす理想的な場所だった。エレーナ達の世界より、もっ
と進んだ幸せな国のはずだった。
美術品のような街並み、そして街のいたる所に流れる小川は人々の生活を支えてきた。
ウォーターランドの状況は、エレーナ達の天上界と酷似していた。
「実は私の住む天上界もここと同じ様な状況なのです」
エレーナから天上界も危機に瀕していると聞かされたグラシアはなぜか驚かなかった。
グラシアは冷静だった。
「貴方の世界に信頼出来る人はもういないの?」
「います。白川シュウ君とか、名陵学園由乃高校のクラスメイト達とか」
「それならまだ可能性があるわ」
グラシアは微笑んだ。