天上界の対立は解決された。
だが、エレーナは素直に喜べなかった。
「貴方は、シュウを幸せにするために何もしてこなかった」
マリアンヌに言われた言葉が何度も頭の中でループし、エレーナを苦しめた。
自分は、結果としてシュウのために何も出来ていなかった。
シュウを幸せにするどころか、かえって不幸にしてしまった。
全て、マリアンヌの言ったことは正しい。自分は、今まで何をやって来たんだ?
シュウの死因を、中沼から知らされたさやかやプリシラも、同じ気持ちだ。
自分達が目を離したすきに、死なせてしまい、幽霊になった。
通常の病死と思われていた死因は、実は医療事故だった。
それに追い打ちをかけるように、土砂崩れでシュウは、家族を全て失った。
この時も天上界存続のため皆、掛けずり回っていた。
いつも、シュウが大きな不幸なめに遭うのは、エレーナ達がシュウのそばを離れた時だ
。天上界存続に気を取られている間に契約者を不幸にさらして来たのだ。
だが、天使達は、将来起こりうる不幸を予知出来る訳ではない。
不可抗力と言ってしまえばそれまでかもしれない。
でも、天使達は不可抗力では終わらせたくなかったし、終わらせてはいけないのだ。
シュウは、どのような事があっても弱音など吐かず、気丈に振る舞い、天上界にも積極
的に協力し、幾たびも難題を乗り越えてきた。
でもそれは、エレーナ達が今まで、シュウの心の強さに助けられてきたに過ぎない。
本当は自分達がシュウを助けなければならないのに、シュウに頼ってばかりでいいのか

確かにシュウは、強い。
彼は、弱さなど人に見せる事がなく、不平、不満も言わない。
だから、エレーナ達は今まで契約者を幸せにするという大事な事を見落とし、それに気
づかなかった。
エレーナ達は、ちゃんとやってきたつもりだったが、それでも、結果として出来ていな
かったのだ。
学生寮の屋上でエレーナが独り、思い悩んでいると、そこへ黒川が来た。
「ちょっといい?」
「ええ」
「私はせっかく学校に来たのに、親として何も出来ず、なつみはシュウ君やエレーナさ
んに散々ひどい事ばかりした。それなのに、むしろふたりに助けられたのは、なつみの
方。
シュウ君は、あれだけ人一倍辛い境遇で、幽霊にまでなったのに、なつみに良くしてく
れた。
私は、シュウ君にすごく悪い事をしているような気がする。