私達がやっている事は、すごく重大な任務。
軽い気持ちで出来ることじゃないのよ」
さやかは、シュウを注意した。
「軽い気持ちで言っている訳じゃありません!」
シュウには考えがあった。
「新天上界のマリアンヌさんは大切な人を失ったと聞いています。
僕も、災害で二度も家族を失いました。
大切な人を失った僕なら、マリアンヌさんを説得出来るような気がします」
されど、幹部達はシュウの必死の訴えにも、相変わらず慎重な姿勢を崩さない。
「幽霊を使って交渉というのは、ふざけすぎているのではありませんか?」
「幽霊の言葉などに耳を傾けないでしょうね。
かえって、相手の態度を硬化させてしまうのでは?」
幹部達の懸念ももっともなのだ。
それに、三度もしつこく交渉を求め、エレーナ達はすっかりマリアンヌから嫌われていたというのもあった。
その時、
「やってみなさい」
エレガンス幹部が決断した。
「しかしエレガンス幹部、いくら何でもそれは無茶です」
他の幹部が止めた。
「無理は承知です。同じやり方でだめなら他の方法を考えるしかありません。
今は、シュウに頼るしかないのではありませんか? 
それとも皆さん、他に妙案でもありますか?」
エレガンス幹部の言葉に、他の幹部達は、納得出来ない部分はあった。
だが、幹部達も既に出来る事は全てやり尽くし、異論など出せなかった。
「私は、シュウを信じてみようと思います。これには天上界の命運がかかっています。
シュウ、貴方が良い交渉をされる事を私は、期待します」
「エレガンス幹部、ありがとうございます」
シュウは、エレガンス幹部に礼を言った。そして他の幹部達にも深々と頭を下げた。
幹部達は渋々と、シュウに交渉役を任せる事を認めた。
「あの、最後にもう一つだけ、お願いがあります。
巨大樹の枯れ枝と、黒ずんでいる物を数本下さい」
シュウはエレガンス幹部にそう願った。実に奇妙な願いだ。
「それは構いませんけど、何に使うのですか?」
「これを見せれば、マリアンヌさんもきっと、分かってくれると思うんです。
僕は、自分が交渉役として、幹部達から支持されていないのはよく理解しています。
僕が幽霊である事への皆さんの懸念も。
何度もしつこく交渉を迫れば相手に嫌われるだけ。
だから今度こそ、絶対失敗は許されないという事も。
交渉がまとまるまで、僕は帰らないつもりです」