新天上界の事は、エレーナ達を通じ、天上界の幹部達にも報告された。
しかも、その指導者が、かつてイザベラ・エレガンス幹部が妹のように可愛がり、将来は幹部職を有望視されていた、マリアンヌ・AK・チルステアであるということに、幹部会には大きな衝撃が走った。
特にエレガンス幹部が受けたショックは測り知れようがなかった。
普段、どんな時でも、冷静かつ適切な判断を下すエレガンス幹部が、今回ばかりはひどく動揺した。
体は震え、表情はこわばっている。
その尋常ならぬ様子に気づいたエレーナは、
「あの、エレガンス幹部?」
と声を掛けた。
心配そうに彼女の顔をのぞきこむエレーナに、我に返った、エレガンス幹部。
「本来人間界は、人々の意思によって造られるべき物。
私達が、下手に手を加えれば、かえって人間界にとってマイナスになる事だってありえます。だから、人間界の歴史を変えるような事はしてはならないのです。
あの青年は、我が身に変えてまで、マリアンヌの命を救ってくれました。
彼が死んだ事は誠に残念でなりません。
でもそれは、人間界に万が一の事態を引き起こさないため。
マリアンヌだって本当はそれを分かっていたはず。
ただ、あのような状況になれば、誰だって、マリアンヌのようになってしまって当然です。マリアンヌには、本当にむごい事をしました。
あの娘はまだ、私達を恨んでいるんでしょうね」
それは、エレーナが初めて見るエレガンス幹部の悲痛の表情であった。
いつも、完璧に仕事をこなし、天使達から絶大な信頼を得ているエレガンス幹部。
そんなエレガンス幹部にも、このような苦い過去があったとは……
今まで決して、自分からそのような過去を口にする事はなかったエレガンス幹部。
そして、今はエレーナも、中間クラスとして、新人天使を指導監督する立場。
人の上に立つ者の孤独と葛藤、そして苦しみ……
人の心をつかむ事の難しさを、エレーナはこの時改めて、思い知らされたのであった。

 エレーナとさやかは、エレガンス幹部から、新天上界をねばり強く説得し、協力を得るよう指示された。
「本来であれば、私達幹部が直接行くべきなのでしょうが、天上界は危機的な状況。
少しでも、巨大樹を延命させるべく試行錯誤を重ねている状態です。
天上界を留守にする事は出来ません」
「でも、新天上界は頑なに私達を拒み、聞き入れてくれませんでした」