「ハァ…何とか警官はまいたみたいだな……」
新宿駅から少し離れた路地に逃げ込んだ羽毛田は、額の汗を拭いながら携帯を顔に近付けた。
「おい!カネはちょっと減っちまったが、警官はまいたぞ!取引続行だ!」
『ヒャッハッハ♪
アンタもスゲェ事やるよな♪会社クビになっちまうぜ~♪』
どうやら犯人は、あの新宿駅での騒ぎを知っている様だ。
「余計なお世話だっ!
さあ、次はどこへ行けばいいんだ?」
羽毛田に促され、犯人が提示した次の取引場所は、およそ身の代金の引き渡し場所とは思えない所だった。
『JR新大久保駅から西に向かって三百メートル程行って左手の路地に入ると、そこに“華の湯”という銭湯がある。
そこの三十番の脱衣入れにカネを入れて扉を閉め、鍵を自販機の裏に隠して風呂に入るんだ!』
「風呂に入れだと?」
『そうだよ♪走り回って、だいぶ汗もかいたんじゃないのか♪』
「鶴田教授は、いつ解放してくれるんだよ?」
『こっちがカネを手にしたら、脱衣入れに人質の居場所を書いたメモを残していってやる。』
犯人の言う事が本当がどうかはわからないが、人質がいる以上、犯人の言う通りにするしか方法がない。
羽毛田は、まだ警官が居るであろう電車での移動を諦め、新大久保に向かって歩いて行った。
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