「ところでボス…藪製薬にはアポは取ってあるんですか?」


運転席からルームミラーで後席をチラリと見ながら、黒崎が羽毛田に尋ねた。


「誰がアホだっ!誰が!」


「“アホ”じゃなくて“アポ”!そんなベタなボケかまさないで下さいよ……」


羽毛田は、何を心配する必要があるのかという顔で、新しい煙草に火をつけた。


「アポなんて無くたっていいだろ。
こっちは教授を助けてやろうってんだからな♪」


「そんな事言ったって…怪しい人間は、門前払いされちまいますよ?」


「誰が怪しいんだよ?
こっちは、由緒正しい“テロリスト”だろうが!」


(だから余計マズイんじゃねぇか!……由緒正しいテロリストなんて居るかっ!)


黒崎は、これ以上何を言っても無駄だと思い、口を閉ざしてカーラジオのボリュームを少しだけ上げた。





ちょうど、そのカーラジオから流れる曲が終わりに差し掛かる頃、道路の左手には藪製薬の巨大な本社ビルが姿を現していた。