「没後十二年 夭折の画家西野浩之さん個展開催」

小さな記事だった。
チエミの手は震えた。

「横浜市生まれの西野さんは高校二年十七歳の時、バイク事故で亡くなった。西野さんは幼少のころから絵画の才能を発揮、数々の賞を取るなど、将来を期待されていた。西野さんの13回忌を終え、姉の真弓さんが区切りを付けたいと浩之さんの個展を開催する。」

記事にはヒロユキの姉らしき人物の写真も付いていた。

あまりの突然の再会だった。

こんな記事を偶然見つけるなんてヒロユキが呼んでいるとしか思えなかった。

十七歳だったヒロユキ。

あの頃のヒロユキよりもずっとずっと年上になってしまった。

新聞紙の上にポタポタと涙が落ち、水のシミを作った。

「あの…」

レモンティーを運んできた若いウェイターがその様子に困惑して立ち尽くしていたが、チエミは止められなかった。




ヒロユキの個展は、官公庁のあるオフィス街のビルの一画で開かれていた。

ちょうど昼時で、肌寒くなってきた銀杏並木の街の通りをサラリーマンやOLたちがそぞろ歩いていた。

擦りガラスの入った扉の前にはボードが置かれ、
「西野浩之 絵画展」と書かれていた。

チエミがドアを開け、中に入ると受付のカウンターには誰もおらず、カウンターの上には

「只今、席をはずしています。ご記帳お願いします」

というメッセージメモとノートが置いてあった。

チエミは自分の名を記した。