抜き際に一閃して風の剣を弾いた彼女は、そのまま追撃をすることなく立ち上がり剣を鞘にしまう。


「いいわ。もぅ面倒だから、ここは素直に礼を言っておくわ。ありがとう」


不意を突かれたスカーレットの言葉に、青年は目を大きく見開いたが、やがて口元を緩め剣をそよ風に流した。


「初めからそうしておけばいいんだよ。……おまえ、名前は?」

「……もう会うこともないだろうし、教えるのは腰が引けるけど、まぁいいわ」


青年の問いに一言多い言葉を呟いたスカーレット。

その態度にまたカチンと来るも、青年は黙って名乗るのを待つ。


「スカーレット=ノヴァよ。魔導士」

「俺はグラガ=ラーディンだ。まぁ、また会わないことを願うよ」


名前を確認した所で、二人は握手などすることなく頷くと、北に向かう途中の野道に戻った。

しかし、


「…………アンタねぇ」

「知るか。俺もあの町に用があるだ。おまえもなら仕方ねぇだろうが」


運悪く、目的地が同じために、結局二人で町まで行くことになったのを、スカーレットとグラガは溜め息をついて了承したのだった。