『いや、別に……』
「おかげで濡れなくてすみました。ありがとうございます…」
彼女は聞き取れるぐらいのか細い声で喋る。
「あんな大雨だったのに…大丈夫ですか?」『あっあ…大丈夫ですよ…』
彼女とは昨日の傘を貸した女子。
ご丁寧に屋上まで呼び出しまでして傘を返してくれた。
『…………』
沈黙。
帰ろうかと思ったが、沈黙を破ったのは彼女。
「空がきれいですね、」
『……そうですね』
そう返事を返す。
「すごく眩しい……」
彼女はそう悲しい顔で言った。
その表情から目を離せなくて…
「……雲一つない……海みたいに青い空……」
まるで初めて空を見たかのように淡々と続ける。
「今日の空は本当に綺麗ですね」
にこっと笑う。
「それじゃ…傘…ありがとうございました」
そう言って去っていった。
彼女の後ろ姿は妙に人間離れしていた。

