慎一はエレーナを抱き起こした。
「何て事するんだよ。エレーナは関係ないだろ」
「関係ないのに口出しするからだ」
その時、
「お父さん、お母さん、もうやめて」
どこからともなく声がした。
「その声は姉さん?」
姿を消していたはずのさやかが現れた。
「さやか……なのか?」
総一郎は、自分の目を疑った。和江も驚きのあまり声が出ない。
「もう慎一をひどい目に遭わすのはやめて。私、ずっと姿を消して、
お父さん達の様子を見ていた。でもあまりにもひどすぎる。私、もう我慢出来ない」
「そんなバカな! さやかは12年前に死んだはずだ。ここにいるはずはない!」
総一郎は、即座に我が娘を否定した。
「確かに私は、一度死んだ身。だから、今は幽霊。
私は、独りになった慎一が心配で、死にきれなかった。
でも、死んだ人間が家族に会うのはまずいでしょ? だから、遠くから慎一を見守り続けた。
エレーナさんと知り合って、慎一の事をいろいろと聞かされ、我慢出来なくなった。
だから、こうして戻ってた。今は、3人で暮らしているわ」
「さやかさん?」
なぜさやかが、自分を幽霊と言うのか、その意味が分からないエレーナ。
「じゃあ、この女も幽霊か!」
総一郎はエレーナを指差した。
「エレーナさんは普通の人間よ。
さっきから聞いていれば、お父さん達は勝手過ぎる。
慎一が今まで、お父さん達のせいでどれだけひどいに遭わされて来たと思っているの。
エレーナさんから全て聞いたわ。お父さん達は、そうやってずっと慎一を傷つけてきた。
でも、エレーナさんは、慎一がこれ以上不幸にならないようにしてくれた。
お父さん達がひどいことをするたびに、エレーナさんは慎一を守ってくれた。
私がいない間、エレーナさんは慎一のそばにいてくれた。
でもお父さんは、そのエレーナさんにまで暴力を振るった。ふたりともひどい!」
「死んだ奴が今更出てきやがって。そんな事を言うためにわざわざ戻ってきたのか。
俺は、慎一の親だ。親が息子の将来を決めて何が悪い。俺は当然のことをしているだけだ」
「でも慎一は嫌がっているわ。3人で暮らしていこう、私とエレーナさんで慎一を支えよう
って決めたの。
慎一は、やっと幸せになりかけた。なのにお父さん達はそれを壊そうとしている。
慎一の幸せを壊さないで!」
さやかは総一郎に懇願。 
「私からもお願いします。慎一さんを自由にさせてあげて下さい。