慎一はエレーナと街に出掛けた。
ふたりで歩いていると、見知らぬ男とすれ違った。
エレーナは驚いたように振り返った。
「あの人は!」
「どうしたの?」
エレーナの様子に気づいた慎一。
「いいえ、何でもありません」
慎一とエレーナはそのまま歩き続けてた。
だがエレーナは、さっきの男が気になった。突然、
「慎一さん、私、急用を思い出しました。先に行ってて下さい」
「おい、エレーナ、どこへ行くんだ?」
エレーナは羽を広げ、飛んで行ってしまった。
エレーナはいったいどうしたというのだ。
  
 エレーナは、さっきの男を追って公園まで来た。そして、男に話掛けた。
「久しぶりです。藤村直純さん」
「君は、あの時の! 君が人間界に来ているということは、新しい契約者でも出来たのか?」
藤村は驚いたように振り向いた。
「はい。今は、新しい人と契約しています」
「ところで、俺に何の用? もう君とは関係ないはずだ」
藤村はエレーナを見るなり、不機嫌になった。どうやら彼女とは会いたくなかったようだ。
「あの直純さん、体調はまだ悪いんですか?」
「そう簡単に良くなる訳ないだろう。最近もっと具合が悪くなった。
別な病気にもなった。もう最悪だ」
「そんなに悪いんですか」
エレーナは、藤村の体調が良くない事に心を痛めた。
「あの、私の友人が貴方の力になってくれると思います。
もしよかったら頼んでみませんか?」
エレーナは、打診してみた。
藤村は、少し間を置いてからこんな事を聞いてきた。
「君の今の契約者ってどんな人?」
「すごくいい人です。優しくて、しっかりしていて」
エレーナがそう答えると、 
「じゃあ、君はその人を幸せに出来たのか?」 
藤村はさらに質問をしてきた。
 「まだ途中ですけど、絶対出来ると思います」
「そう」
藤村は、それ以上何も言わなかった。会話はそれだけだった。

 夕方、家に帰ったエレーナ。
「遅かったじゃないか。ずっ待っていたのに」
エレーナが戻って来ないので、独りで用を済ませ、帰宅していた慎一。
「すみません。話し込んでいたのでつい」
エレーナは、謝った。
「友達にでも会っていたのか?」
「いいえ、私の一番最初の契約者です。偶然再会したので少し話していたんです。
病気で苦労をされている方で、当時、私がまだ未熟だったせいで、
あの人の信頼を得ることが出来ず、契約破棄されてしまったんです。