「何があったの?」
エレーナの友人達も駆けつけてきた。
「これを作るのにどれだけ苦労したと思ってんだ」
「今、直しますから」
エレーナは、慌てて直そうとしたが、さらに部品が取れた。
「もういい、余計な事するな。
これは、俺が大学の時、コンクールで大賞を取った作品なんだ。
誰からも認められたことのなかった俺が、初めて人に認められた作品だったんだ。
だからこれはすごく大切な物なんだ。それをこんなふうにしやがって」
険悪な雰囲気を察した、エレーナの友人達。
「何か大変なことになっているみたいだね」
「私達、帰った方がいいんじゃない?」
友人達がお互い相談をし始める。
「あの、私達はそろそろ帰るから。じゃあね。エレーナ、慎一さん」
友人達は、慌てて帰って行った。
「私の能力を使って直しますから」
エレーナは願い事で直そうとした。
「やめろ、そういうのは嫌なんだ。
お前は、天使の能力に頼らずに、自分の力だけで努力して何かをやり遂げたことがあるのか?」
「それは…」
エレーナは少し考えた。だが思い当たらなかった。
「ありません」
「だろうな。天使の能力に頼らなければ何も出来ない。
自分の力だけで努力したこともないくせに、お前にこれと同じ物が作れる訳ないだろう。
人間は、一つのことを成し遂げるのにすごい努力をする。
たとえ、どんなに小さい事でも。
一見、馬鹿げたことに思えるだろう。
能力を使って何でも簡単にこなせる天使のお前に、人間の何が分かる!」
慎一はそう吐き捨てた。
「慎一さん……」

 私は慎一さんに嫌われてしまったかもしれない。
エレーナが独り落ち込んでいると、さやかが帰ってきた。
「ただいま、あれ? エレーナさん、どうしたの?」
エレーナは照明もつけずに独りで座り込んでいた。
「さやかさん、実は私……」
事情を打ち明けるエレーナ。
「そうだったの、そんな事があったの。でも建築模型壊したぐらいで
慎一も言いすぎなんじゃない?」
「あれは、慎一さんが初めて人に認められた大切な作品だったんです。
それに、慎一さんの言う通りなんです。
私、今まで天使の力に頼ってばかりで、自分の力で努力したことがないんです」
「エレーナさん……」
さやかは、エレーナにやさしい言葉のひとつもかけようとしたが、
何を言っていいのか分からなかった。
 
エレーナは、慎一の部屋に様子を見にそっと入っていった。