「慎一さん、ちょっと来て下さい」
夜、テレビを見ていたエレーナが叫んだ。
「どうしたの?」
「これを見て下さい」
「これは!」
そこには、テレビに映るサラ・シンフォニーの姿があった。
派手なステージ衣装で歌い踊る姿は、アイドルそのものだ。
「なんで、サラが出ているんだ?」
サラは歌の終わりで天使の羽を広げた。
会場から、歓声が上がる。
「なにやっているんだ、サラは」
彼女は、歌いながら天使の力を使いまくっている。
歌の中でやさしい暖かい光を何度も発した。
それは、エレーナが慎一のために使っていた光と同じものだ。
サラがアニメの魔法少女のようなつえを振り回すたびに光は発生した。
そのたびに、観客たちは大喜びした。皆、とても幸せそうな顔をしている。
「きっとサラさんは、歌いながら会場の人達を幸せな気持ちにしているんだと思います」
エレーナが推測する。
「しかし、まずいんじゃないか?
あれだけ力を使ったら、天使だということがばれちゃうじゃないか」
慎一は心配をする。
「でも、会場の人達はきっと仕掛けがしてあると思いますよ」
エレーナは以外にも冷静だ。
「天使の羽は衣装に仕掛けがしてあって、あの光は彼女の持つつえと会場の照明が連動している
とでもいうことか?」
慎一も仕掛けの仕組みを想像してみた。
「みんなきっとそう思っているはずですよ」
確かに、つえを振る動作と光が発生するタイミングは、きちんと合っている。
天使であることがばれないように、あのつえが光を発するように見せかけているのだろうか?
 やがて、驚くことが起きた。
羽を大きく広げた彼女は、ゆっくりと会場を飛び始めたのだ。
「いくら何でも、これはやりすぎだ。サラの奴どうするんだよ。
自分は、天使だって言っているようなもんじゃないか」
慎一は呆れ返る。
「でもよく見て下さい、会場の天井を」
エレーナが画面に映る会場の天井を指さす。
よく見ると会場の天井には、ワイヤーが張り巡らされている。
「会場の人達は、彼女がワイヤーでつるされていると思っていますよ」
サラが飛ぶたび、天井のワイヤーが彼女の移動する位置に合わせて、
その部分だけが重く垂れ下がっている。
でもサラの体にワイヤーがついているようには見えない。
いくら仕掛けがあるように見せかけても、サラの正体がばれないという保証はない。
とにかくど派手なステージに、慎一とエレーナはただ驚かされるばかりだった。