綾香の知人、川村が入院した。
かなり前からの長患いで、綾香はよく見舞いに行った。
「綾香さん、私もついていってもいい?」
サラ・シンフォニーは、綾香と共に川村の病室を訪れた。
「川村君、また来ちゃった。具合どお?」
「もう来なくていいっていったのに」
川村は無愛想に答える。そして傍らのサラに目をやった。
「で、そっちは?」
「こちらは、友人のサラ・シンフォニー。同じ大学なの」
綾香がサラを紹介。
「もしかして、留学生?」
川村は聞き返す。
「いえ、私は子供の頃から日本に住んでいます」
「川村君、体調は良くないの?」
綾香が川村の体調を気遣う。
「斉木、前にも言ったよな、もうここには来るなって」
「川村君の事がどうしても心配だから。ごめんね、私もう帰るから」
綾香は、病室を後にした。サラも綾香を追うように部屋を出た。
「川村さんと何かあったの? 川村さん、綾香さんのことを避けているようだったし」
サラは、さっきから綾香と川村のぎこちないやり取りが気になっていた。
「別に何もないよ」
「でも・・・・・・」
その後もふたりは何度か川村の見舞いに出かけた。
そのたびに川村に嫌な顔をされた。
川村は、なぜ綾香を嫌うんだろうか? サラは、気になった。

 その日も綾香は、サラと一緒に川村の見舞いに行った。
「何度言ったら分かるんだ、もう来るなとあれほど言ったろ!」
川村は、廊下まで聞こえるような声で怒鳴った。
「ごめん、すぐ帰るから」
綾香は、病室を出た。
だが、それを見かねたサラは、ついに我慢できなくなった。
「ちょっと、それは心配して来てくれている人に対してひどいんじゃない?
綾香さんは、貴方をすごく心配しているのよ」
「別に、君には関係ないだろ」
「関係なくないよ。私は、綾香さんの友達として貴方の態度が許せない。
どうして綾香さんにあんな態度とるの?」
サラは、綾香に対して冷たい態度を取り続ける川村が許せなかった。
「俺、斉木に告白されたんだ」
「えっ?」
それは、綾香の川村に対する恋心を意味するものだった。
サラは、驚いて病室のドアの窓ごしに映る綾香に目をやった。
「でも、俺はあいつと付き合うつもりはない。だから、冷たく突き放しているんだ」
「だからってもう少し言い方ってものがあるんじゃない?」
それでもサラは、反論をし続ける。
「実は俺、もう長くは生きられないんだ。だから誰とも付き合うつもりはない」