一人の天使が、人間界に舞い降りた。
彼女の名は、サラ・シンフォニー。
「久しぶりの人間界、街並みは以前とちっとも変わっていない。
あれは、私が住んでいた家。ちょっと行ってみよう」
彼女は、元実家に降り立った。
「私の部屋、懐かしいな。お母さん、ずっとそのままにしていてくれたんだ」
廊下で足音がした。
「まずい、誰か来る」
彼女は姿を消して隠れた。
ドアが開いて誰か入って来た。
「あれは、お母さん!」
「サラが逝ってからもう二年以上経つのね」
独り呟きながら、戻る事もない娘の部屋を手入れする。
サラは今すぐ母に抱きつきたい気持ちをこらえた。
「お母さん、ただいまって言いたい。でもそれはまずいよね、ごめんね、お母さん」
サラは、やや重い気持ちで実家を離れた。
しばらく飛んでいると、彼女が通った高校が見えてきた。
「あれは、私が卒業した高校、あそこも行ってみよう」
人に姿を見られないようにしながら、校舎内を回った。
「私、三年間ここに通ったのよね。あっ、図書館、よく本の整理したっけ。
音楽室、よくここでピアノ弾いたな。職員室、懐かしい先生達がいっぱいいる。
あれもこれも私がいた頃とちっとも変わっていない」
彼女は屋上に行った。
「うーん、やっぱり屋上は風が心地いい」
しばらく屋上で休憩した。
それから、グランドでクラブ活動する生徒達に目をやりながら、彼女は静かに飛び立った。
ある家のそばまで来た。
「あっ、あれは、宮原慎一さん宅では?
エレーナさんにも会いたいし、ちょっと寄っていこうかな」
サラは、屋根を通り抜けて宮原宅に入った。どこでも通り抜けられる天使の能力だ。
 
 宮原慎一宅、斉木綾香が遊びに来ている。
「宮原君、マイナスエネルギーが浄化出来て本当によかったね」
「ああ、一時はどうなるかと思った」
「エレーナも宮原君と仲直り出来てよかったね」
「はい、ありがとうございます」
久しぶりの平和なひと時、自然と会話が弾む。
「それにしても、さやかさんが天使になっていたなんて驚きだよ」
綾香は、いまだに信じられない様子。
「私も最初、自分でも信じられなかったのよ。今は、もう慣れたけどね」

 「こんにちは、エレーナさんいる?」
「あっ、サラさんお久しぶりです」
再会の挨拶を交わすサラとエレーナ。
「誰? エレーナの知り合いか?」
慎一が二人の関係を尋ねる。