幸せになろう

この人は何を言っているんだ? 絶対姉さんなんかじゃない。
姉さんそっくりの別人だ。だいたい、死んだときと見た目が変わっていない。 
もし生きていたら、もっと大人になっているはず。どう見ても15歳のままだ。
慎一は不審に思った。
「慎一、いろいろ大変だったようね。エレーナさんから全て聞いたよ。
私が死んだせいで父さん達と対立したり、辛い思いをさせてごめんね。
エレーナさん、今まで慎一の世話をしてくれてありがとう」
「いいえ、慎一さんにお世話になったのは、むしろ私の方なんです。
だから、慎一さんには本当に感謝しています」
ふたりは会話が和んでいる。
慎一は、どうしていいのか分からない。黙って一言もしゃべらないでいた。
「慎一は、私が突然帰ってきたので驚いているんでしょう?
無理も無いわ。十年以上離れていた訳だし。
死んだ人が生き返るなんてやっぱり信じられないよね」
死んだ人が生き返っただと?
慎一は唖然とした。
「死んだ人が生き返る訳ないだろ!」
慎一は強い口調でそう返した。
慎一はその時初めて姉らしき人物に口を利いたのだった。
「でも生き返ってしまったのよ」
さやかが、慎一を見つめる。そのやさしい顔は、昔と変わらない。
だが、慎一は信じなかった。
 
 「そうだ、今日は私が夕飯作るわね。慎一の好きな物を何でも作るよ。
そう言えば、カレーライスが好きだったわよね?」
さやかは、ひらめいたように言う。
何で俺の好物を知っているんだ? エレーナにも話した事ないのに。
慎一はますます怪しいと思った。
食事はいつもエレーナが作ってくれている。慎一は、与えられた物を食するだけで、
特に希望を出したことはなかった。
やっぱりこの人は姉さんなのか? いいやそんなはずはない。
慎一は半信半疑の気持ちもあったが、あえて否定した。
夕飯は、さやかが作ったカレーライスを食べた。
昔と変わらない懐かしい味……
さやかは、昔から料理が得意だった。
両親は当時、子供だった慎一の世話をさやかに任せっきりだった。

 慎一とエレーナ、そしてさやかと名乗る姉そっくりな謎の人物との奇妙は共同生活が始まった。
それからも、さやかと名乗る人物は、毎日慎一の食事を作った。
どれも慎一の知る、昔のさやかの料理その物だった。

 ある日、さやかがこんな事を言った。
「エレーナさんていい人ね。やさしくて、しっかりしていて。