慎一には三浦という親友がいる。
その三浦が入院したので、慎一はたびたび見舞いに出掛けるようになった。
そんな、ある日のことだった。
突然慎一の両親が、帰って来た。
子供の頃、喧嘩別れして以来、十二年ぶりの再会だ。
慎一は、戸惑った。両親と、どう接していいか分からない。
姉、さやかの死をめぐり激しく両親と対立した過去、そしてよみがえる怒りと憎しみ。
両親の突然の帰宅は、嵐の前触れを予感させるものであった。
慎一は、両親とまともに口が利けなかった。
父、総一郎は、エレーナの姿を見るなり、
「何だね、君は? 勝手に人の家にあがりこんで」
不快感をあらわにした。
そして、慎一がエレーナと暮らしていることを知るなり激怒した。
「慎一、こんなよその女を連れ込んで。勝手な行動は許さんぞ。早くその女を追い出せ!」
父さんこそ、十年以上自分の息子を放ったらかしといて、
今更のこのこ帰ってきて勝手放題言いやがって。
慎一は、総一郎のあまりにも身勝手な振る舞いに腹が立った。
エレーナは、一人だった慎一を、ずっといたわり続けてくれていたのだ。
そう簡単に追い出される訳にはいかない。
更に総一郎は、こう言った。
「お前に大事な話がある。父さんの会社は今、大変忙しいんだ。
人手が足りないんだ。お前も手伝え」
なんて勝手な父親なんだ。身勝手過ぎるにもほどがある。
一度は俺を捨てたくせに、自分の都合で利用するつもりか。
慎一は、怒りを抑えるのが精いっぱいだった。
「慎一さん……」
エレーナは慎一を心配した。
両親は、エレーナの顔を見るたびにきつく当たり散らすようになった。

 それから数日後、三浦が死んだ。
皮肉にも、さやかと同じ病気だった。
かなり前から入院し、早期治療していたが助からなかった。
三浦の葬儀に出かけた夜、慎一が帰宅するとエレーナの姿が見当たらない。
「あの女なら出て行ったよ」
エレーナがどこに行ったか聞く慎一に対し、総一郎は、まるで他人事のようだ。
「嘘だ、エレーナが自分から出て行く訳ない。父さん達が無理やり追い出したんだろ」
「まったく、あんなどこの馬の骨とも分からん女連れ込みやがって」
総一郎は、慎一の留守を狙ってエレーナを追い出したのだ。
うかつだった。エレーナも葬式に連れていくべきだった。
慎一はひどく後悔した。だかあとのまつりだった。
姉、さやかの死をめぐりで大喧嘩して以来、両親は慎一の全てが気に入らない。