ジェシー・クリスタルは、慎一の腕をつかむと空高く舞い上がった。
「うわぁー!」
慎一は、悲鳴を上げる。
そして、ジェシーは夜の闇を猛スピードで飛んで行く。
あっという間に街の灯りが見えなくなった。
「ちょっと、速過ぎないか」
「我々にはこれくらい普通だぞ」
暗闇とあまりの速さで、慎一はどこを飛んでいるのか分からない。
「今から瞬間移動する、私の手を放さないように」
「瞬間移動って?」
「天上界は、異次元の世界だ。人間ではたどり着けない場所だ。瞬間移動!」
気がつくと慎一は、ジェシーの手につかまったままトンネルの中を飛んでいる。
「ここは?」
「天上界へ向かうトンネルの中だ」
長いトンネルの向こう側に出口が見えてきた。
「あの出口の向こうが天上界だ」
トンネルを抜けた。そこには、見た事もない光景が、広がっていた。
淡いピンク、水色、黄色、うす紫、緑。天上界全体が不思議な色彩に満ち溢れていた。
まさに神秘のベールに包まれた異次元の世界だ。
ふたりは、大きな宮殿の前に降り立った。
「着いたぞ、幹部達がお待ちかねだ」
慎一は、大広間のような会議室に通された。
「宮原慎一をお連れいたしました」
幹部2「ご苦労でした」
会議室には、十数名ほどの幹部達が集まっている。

 「宮原慎一、ここに呼んだのは、貴方が犯した三つの重大な不正契約について
事情を聴くためです」
幹部1が語りかける。
「ジェシー・クリスタルは、天使召喚術を使えないのが不正だと言っていた。
他にも不正があると言われたが、詳しくは分からない」
慎一の疑問に
「では、説明しましょう」
幹部2は、契約管理システムの仕組みや規則、そして三つの不正について説明をした。
説明が終わると、慎一は幹部達に対し、反論をし始めた。
「エレーナは、こう言った。人間を幸せにするのが天使の仕事だと。
しかし、天使召喚術はごく一部の人間しか使えない。
それでは、限られた人間しか天使の恩恵を受けられない。
このやり方で全て人々を幸せに出来るのか?
さらに、相手を選べない契約には重大な落とし穴がある。
天使は、清く正しい心を持った人間との契約を望むのじゃないのか?
天使召喚術で相手を選べない場合、誰と契約させられるか分からない。
契約者が、極悪人ということだってある。
召喚術では、悪人であっても契約し、役目を果たさなければならない。