今思えば、育児放棄だった。
そんなある日、姉の体に異変が生じた。
「ゲホ、ゲホ、」
「どうしたの?お姉ちゃん」
「大丈夫よ、ただの風邪だから」
「病院に行ったほうがいいんじゃない?」
俺は姉を心配した。
「大丈夫、大したことないから」
だが、姉の風邪は、一ヶ月たっても二ヶ月たっても良くならなかった。
俺は、その後も何度か病院に行くように勧めたが、姉は大丈夫だからと聞かなかった。
姉が比較的元気そうだったので、子供だった俺は、ずっとただの風邪だと信じ込んでいた。
だが、姉は単なる風邪じゃなかったんだ。
子供の俺には、それを見抜くことは出来なかった。
姉が倒れたのはそれから、間もなくのことだった。
その日姉はいつもより体調が悪く学校を休んでいた。
「姉ちゃん、俺がついていかなくて大丈夫?」
「少し具合悪いけど大丈夫。私は学校を休むけど、自分で病院へ行けるから、
慎一は安心して学校に行きなさい」
姉は本当はものすごく具合が悪かったんだと思う。でも俺に心配を掛けないためにあんなことを言ったんだ。
病院から俺の学校に連絡が入った。
宮原君、お姉さんが倒れた。すぐ病院に行きなさい」
突然、担任が俺を教室に呼びに来た。
俺は、頭の中が真っ白になった。急いで病院に駆けつけた。
姉はいろんな機器を取り付けられたまま眠っていた。
「お父さんか、お母さんは?」
医師に親を呼ぶように言われた。
「両親はいつも不在で、連絡を取ることも出来ません」
「では、親戚とか信頼出来る大人の方は?」
「親戚は都合が悪く来れません」
医師は表情を曇らせた。
「では、お姉さんの病状は君に直接伝えるよ。落ち着いて聞くんだよ」
「お姉さんの病気は……」
俺は谷底に突き落とされたような気がした。
「先生、お姉ちゃんを助けて。先生!」
「残念だが私の力ではどうすることも……」
姉が亡くなったのは、それから一ヶ月後の事だった。
まだ、15歳だった。
それから姉の葬儀が行われた。だが、両親が到着したのは葬儀終了直前だった。
自分の娘が死んだのに、まるで他人の葬儀のように、遅刻してきた。
今更のこのこ来やがって。そう思うと腹が立った。
「父さんも母さんもひどいよ。父さん達大人がそばにいてくれたら、姉ちゃんの病気に気づいてやれたかもしれないのに。先生が言っていたよ。
もっと早く治療すれば、助かっていたかもしれないって」