「先生、お姉ちゃんを助けて。先生」
「残念だが私の力ではどうすることも……」
そう言って医師は表情を曇らせる。
「父さん、母さんのバカ! 父さん達が姉ちゃんを見殺しにしたんだ!」

 慎一は、ガバッと飛び起きた。
「またあの忌まわしい夢か、それにしても最近よく見るな」
 
「ゲホ、ゲホ、」
「どうしたの?お姉ちゃん」
慎一が心配そうにする。
「大丈夫よ、ただの風邪だから」
突然、小学校の時の担任が慎一を教室に呼びに来た。
「お姉さんが倒れた。すぐ病院に行きなさい」
「お姉さんの病気は……」
医師が姉の病状を説明する。
「先生、お姉ちゃんを助けて……」
医師にすがりつく慎一。
「父さんも母さんもひどいよ」
そして両親への怒り……

慎一は、目がさめた。全身汗びっしょりだ。
「うなされていたようですね。悪い夢でも見たのですか?」
気がつくとエレーナが、心配そうに慎一の顔をのぞきこんでいる。
「ああ、ちょっとな」

 それからも、慎一は悪夢にうなされ続けた。
何度も同じ夢を見るたび、それは少しずつより鮮明になっていった。
何で今更、あの忌まわしき過去に苦しめられ続けなければならないんだ?
もう、終わった事だ。慎一はとにかく忘れようとした。

 ある晩の事だった。
慎一は再び悪夢にうなされた。
その日の夢は、いつもよりはるかに鮮明だった。
「父さん、母さんのバカ!」
慎一は自らの怒鳴り声で飛び起きた。
「何で、いまだにこんな夢、見続けなければならないんだ。もう過去の事だ!」
「慎一さん、落ち着いて下さい」
エレーナの声で、慎一は我に返った。
「あれ? エレーナ、どうしてここで寝ているんだ? 君の部屋は確か……」
慎一のベットの横に布団が敷いてある。
「勝手に入ってごめんなさい。慎一さんが、最近ずっとうなされ続けていたので、心配になって、そばにいました」
「そうだったのか」
「あの、どんな夢だったんですか? 宜しかったら、話を聴かせていただけませんか?」
エレーナは心配そうに慎一を見つめた。
慎一は、ゆっくりと話始めた。

 あれまだ、俺が10歳の頃の話だ。
俺の両親は、大変自分勝手な人達だった。
父は、とにかく仕事に夢中で、母も自分のやりたい事ばっかりやっていて、ほとんど家に帰って来なかった。
だから俺は、少し年の離れた姉に育てられた。
両親は俺の世話を、全て姉に任せっきりにしていたんだ。