いつもと同じ日々、変わらない生活、そこには、独り暮らしの自分がいる。
慎一がエレーナやさやかと別れてから月日が経った。この生活にも慣れた。
街を歩いていて、見覚えのある後ろ姿に出会うことがある。
慎一はつい眼で追い、もしかしたらと思ってしまう。だがそれは、エレーナではない。
本当にエレーナもさやかもいなくなってしまった。
天上界からの来客も、まるで嘘のように来なくなった。
これで、天上界とのつながりも無くなったのかと、慎一は寂しく思う。
エレーナがいたとき、慎一の周りにはたくさんの人がいた。いつも、誰かがそばにいて、
独りになることなどなかった。
今は、誰一人訪れる者はいない。
夏穂や綾香ですら、最近は来なくなった。
ふたりとも学校が忙しいのか、慎一の相手などしている暇は無いのだろう。
 その時、白い天使服、金髪の長い髪とすれ違った。ほんの一瞬だった。
あれ? 今すれ違ったのはもしかして……
「エレーナじゃないか!」
だが、以前と様子が違う。慎一の姿を見ても、表情ひとつ変えない。
「あのう、どなたですか?」
「エレーナ、ほら俺だよ。いつも一緒だったじゃないか」
「あのう、どうして私のこと知っているんですか?」
慎一は、一生懸命話掛けた。しかし、エレーナの反応は良くない。
もしかして、俺の事を覚えていないのか?
慎一は焦った。その時、
「あっ、」
見知らぬ男にエレーナが反応した。
「行こうか」
男が、エレーナに声を掛けた。
「はい」
この人がエレーナの新しい契約者なのだろうか?
その契約者らしき男が慎一に気づき、エレーナに訪ねた。
「誰? 君の知り合い?」
「いいえ、知らない人です」
そんな……知らない人だなんて……
慎一は、ショックだった。
以前、別れる前にエレーナが言った言葉を思い出した。
ずっと慎一さんのそばにいたい、エレーナは確かにそう言ったはずなのに……
なぜで覚えていないのだろう?
「エレーナは、お前の事が忘れられず、天使としての役目を果たせなくなった。
だから、エレーナからお前の記憶を全て消したんだ」
「その声は、ジェシー・クリスタル!」
慎一が振り返るとジェシーが空から降りてきた。
「そんなバカな。でも、ひとつぐらいは、何か覚えているだろう?」
「いいや、何も覚えていない。我々の役目は、ひとりでも多くの不幸な人を幸せにすることだ。
お前も早く忘れるんだな」