あいつは天使。不幸な人間を幸せにするのが役目なんだ。
でも、俺が不幸じゃなくなってしまった以上、いつまでも一緒にはいられないんだ。
もっと不幸な人を助けに行かなければならないんだ」
「じゃあ、愛し合うふたりが引き裂かれるのは不幸じゃないの?
決まりなんか、変えればいいでしょ。
天上界の人達が考え方を変えれば、慎一さんは、エレーナさんとずっと一緒にいられるでしょ」
以前慎一も、エレガンス幹部に同じような事を言った。だが、変えられなかった。
「でも、俺の力ではどうすることも出来ない」
「人間と天使が恋人になっちゃいけないという決まりでもあるの?」
「恋人になるのは、自由なんだ」
「そんな決まり勝手よ。恋人になるのは許しておいて、あとでいろいろ理由をつけて
別れされるなんて。決まりなんて無くなれば、慎一さんもエレーナさんも
そんな悲しい思い、しなくて済むのに」
エレーナがいなくなれば、夕菜にとって、慎一を自分のモノにするチャンスだ。
でも、慎一の気持ちがエレーナにしか向いていないのを、夕菜は嫌と言うほど感じていた。
 
 ルーシーの研修はあと残りわずかとなった。
「慎一さんは私なんかより、人間の女性と付き合ったほうがいいと思います」
それは、エレーナからの思いがけない別れを告げる言葉だった。
「突然、何言い出すんだよ」
「慎一さんだって、将来結婚したり、子供が欲しくなったりするかもしれないでしょう?
天使の私にはそれが出来ないから……」
エレーナは笑っている。でもその眼はさびしく悲しそうだ。
彼女は窓の方を向いてこう言った。
「慎一さんには他にいるでしょう。夏穂さんや綾香さんや夕菜さんが。
みんな慎一さんの事が大好きなんですよ。
私がいなくなっても、あの人達がきっと慎一さんを幸せにしてくれます。
だから、あの人達を私の分まで大切にしてあげて下さい」
慎一は一瞬、エレーナの姿が消えていくのを見た気がした。
「そんな悲しい事言うなよ。俺はエレーナが好きだ。これからもずっと好きだ。
他の女性じゃ君の代わりにならない。エレーナじゃないと嫌だ!」
慎一は後ろからエレーナを抱きしめた。
「心にも無い事、言うなよ」
エレーナは泣いていた。今まで無理をして、自分にうそをついていたのだろう。
こらえきれなくなった涙が、後から々あふれてきた。
「私、慎一さんが好きです。離れたくないんです。他の人の所に行きたくないです。