ルーシーの成長が早いということは、慎一がそれだけエレーナやさやかと一緒いられる時間は短くなるということだ。
だが、人間界の不幸はますます増加するばかりで、天上界の処理能力が追いつかない事を考えると、一刻も早くルーシーを成長させなきゃならない。
慎一には、自分の事とどう両立させるのか、ジレンマだ。
このままじゃまずい。何とかしなくては。
慎一は焦燥感に駆りたてられた。だが、名案は浮かばず、時間ばかりがただ無駄に過ぎていく。

 エレーナとさやかが時々天上界に出掛ける。
ルーシーの様子をイザべラ幹部に報告するためだ。
「ルーシーの成長が著しいですね。こんなに早く成長した例はありません。
契約管理システムからも彼女の成長ぶりがうかがえます。
特に、持田夏穂と仮契約してから大きく成長しています。これは、慎一の考えた研修ですか?」
イザべラ幹部は、高く評価した。
「それは何と言うか……」
顔を見合わせるエレーナとさやか。素直に喜べず、複雑な気持ちの2人。
「彼女が1人前になるには、そう長くはかかりません。このまま研修を続けて下さい」
 
 慎一は独りで出掛けた。その帰りの事だった。 
「慎一さんじゃない?」
突然、少し離れた場所から声を掛けられた。
「夕菜さん!」
「やっぱり慎一さんだ」
朝倉夕菜が追い掛けてきた。
ふたりで少し話ながら歩いた。それからファミレスに行った。
「以前、ここで何度か食事したよね」
夕菜は、懐かしむ。
「記憶喪失だった時に、気分転換になるからって、君がよく俺を連れ出したよな」
「久しぶりね。こうしてふたりきりで話すなんて。
そう言えば、マイナスエネルギーはどうなったの?」
「あれは何とか浄化出来たんだ。エレーナがいろいろと手を尽くしてくれてね」
「そう、解決したんだ。じゃあ、エレーナさんとはうまくいっているのね?」
「それが、人間社会の不幸が増加して、天使達の力では処理が追いつかないんだ」
慎一は、エレーナと一緒にいられなくなる事を打ち明けた。
「えっ、エレーナさんと別れちゃうの?
そんなのひどいよ。慎一さんを置いて行っちゃうなんて」
「天上界の決まりごとだからしょうがないんだ」
「私がエレーナさんだったら、慎一さんを置いてよそに行ったりはしない。
好きな人のそばを離れたりしない」
夕菜はまだ、慎一を諦めきれていなかった。
「エレーナだって辛いんだよ。