夜、エレーナが夕飯の後片づけをしている。
「エレーナ、俺も手伝うよ」
「これは、私がやりますから、慎一さんはゆっくりしていて下さい」
「俺は、君と一緒に過ごせる、残された時間を大切にしたいんだ。
だから、一緒にやろうよ」
「慎一さん……はい!」
エレーナは、慎一の顔を見つめ、そして嬉しそうに返事をした。
ふたりで談笑しながら後片づけをした。
ところが、
「あ痛っ、」
「どうしたのエレーナ?」
エレーナの指先から血が出ている。
「お皿の欠けたところで指を切ったのか?」
「うん」
「今、手当てするから」
「どうしたの?」さやかが様子を見に来た。
「エレーナがお皿の欠けたところで、指を怪我したんだ」
「じゃあ、私が手当てするね」
さやかがエレーナの手当をしようとする。
「いや、俺にやらせてくれないか」
慎一は、エレーナの傷の手当をした。どうしても自分でやりたかったのだ。
「危ない食器がないかきちんと確認しておくべきだった。もっと俺がしっかりしていれば。
エレーナ、本当にごめん。
ところで、人間の薬って天使にも効くのかな?」
「それは、分からないです」
エレーナにも薬の効果は分からなかった。

「あれ? このお皿……」
さやかは、欠けた皿に見覚えがあった。
皿の傷は、以前エレーナがつけたものである事をさやかは知っていた。
「そのお皿は、だいぶ前に私が欠けさせたんです。
本当は私が悪いのに、慎一さんは私の怪我を自分のせいだと思い込んでいるんです。
でも、慎一さんのその優しさが嬉しくて、本当の事を言えませんでした。
私は、そんな慎一さんとずっと一緒ににいたいんです」
「エレーナ……」
さやかは、辛そうなエレーナに何も声を掛けられなかった。

 一方、ルーシーの成長が著しい。
夏穂と仮契約してから、彼女はどんどん成長している。
夏穂を守るために毎日学校に付いて行っている。
姿を消して授業を受けたり、学校の図書館で読書している。だから成長するのだろう。
世間知らずの天使には、人間の学校はある意味良い研修の場なのかもしれない。
しかし、中学程度の勉強は、ルーシーには簡単すぎた。
彼女は自分で本を取り寄せたり、ネットで調べて独学するようになった。
このままじゃ一人前になるのに、半年どころか数ヶ月かからないかもしれない。
そんなに急いで成長しなくてもいいのに。