「ところで、お兄ちゃんのところには、まだエレーナさんとさやか姉さんがいるんだね。
私は天使取上げられちゃったのに……」
夏穂は、エレーナとさやかが気になっていた。
「ねえ、お兄ちゃんて、そんなに不幸なの? 何かすごく辛い事とかがあるの?」
「俺達は新人天使のルーシーの人間界での研修を手伝わなければならないし、でもそれが済
んだら、天使を返さなければならないんだ」
「そうなの」
夏穂は、慎一にまだ天使が付いていることを羨ましがるどころか、むしろ彼を
そこまで心配してくれていたのだ。
こんな、素直で優しい娘から天使を取上げるなんてひどい。
 
 「俺は、夏穂ちゃんの友達が増えればいいと思った。ただそれだけだった。
天上界の状況も知らず、自分の判断だけで天使を紹介した。
まさかこんな事になるなんて思わなかった。俺は、何てひどい事をしたんだ。俺のせいだ。
俺がもっとしっかりしていれば、あの娘を悲しませることはなかったんだ。
なのに夏穂ちゃんは、羨ましがるどころか、俺がすごく
不幸なんじゃないかって心配してくれたんだ。
俺は、そんな夏穂ちゃんの気持ちを踏みにじるような事をしたんだ」
慎一は、とりみだした。
「慎一、落ち着いて」
「慎一さんは悪くありません。自分を責めないで下さい」
さやかとエレーナは、慎一を落ち着かせようとする。
「ちゃんと慎一に本当の事を話さなかった私達が悪いのよ」
「慎一さんは、何も知らなかっただけです。
それに、天上界の事情まで知っている人間は、ほとんどいませんよ」
だが、慎一は、
「悪い事をした時、知らなかったじゃ済まされない。
人間界の仕組みがどうとか散々偉そうな事を言っておいて、
天上界の事を一番分かっていないのは俺じゃないか」
「慎一さん……」
ひたすら自分を責め続ける慎一にエレーナもさやかも何も言えなかった。
あと半年、ルーシーの成長次第では、数ヶ月後にはエレーナもさやかもいない。
ルーシーの研修期間が終わる前に、エレーナもさやかもいるうちに、何とかしなければならない。 
慎一は、危機感を強めた。