幸せになろう

急いで病院へ搬送した。
「慎一、お父さんに連絡して」
「何で俺がそんな事しなければ……」
さやかが頼んだが、慎一は拒否。彼は、何であんな母親のためにとしか思えなかった。
「私は一度死んでいるし、エレーナは他人。
私達がお母さんの急病を伝えても、お父さんは多分聞いてくれない。
でも貴方が電話すれば、聞いてくれるはずよ。
お父さんにこの事を伝えられるのは慎一、貴方しかいないの。
それに貴方が電話すれば、お父さんの慎一に対する見方だって変わると思うわ」
「父さんの連絡先なんて知らないぞ」
総一郎は、慎一に連絡先など教えたことがなかった。
そんな父に連絡してやる必要ない。母の病状が知りたければ自分から出向いてくればいい。
慎一は、総一郎と話したくなかった。
「お父さんの携帯の番号が知りたいって、私に願って」
慎一は少し考えた。あんな親のための協力など出来ない。
だから、自分を納得させる理由づけをした。
姉は天使なので、自分の願いを叶えられない。
これは両親のためではなく、あくまでも天使である姉に対する協力と、
慎一は自分に言い聞かせ、願いをした。
「分かった。父さんの携帯の番号を知りたい」
光とともに願いは叶った。天使はこういうことも出来る。
慎一は、渋々総一郎に電話した。 

 やがて総一郎が病院に駆けつけてきた。
「母さんは?」
「今、眠らされている」
慎一は、静かに答えた。
「俺の連絡先、お前に教えたつもりはないが?」
総一郎はいぶかしがる。
「姉さんが幽霊の能力で調べてくれたんだ。
それから、最初に母さんの異変に気づいたのはエレーナだ。
母さんの顔色が悪いと心配して、ずっと付き添っていてくれたんだ。
倒れた時も、最初に気づき、救急車を呼んでくれたんだ。
エレーナがついていてくれなかったら、母さんは今頃大変な事になっていた」
「慎一さん、私は何も……」
「エレーナが母さんを助けた事にするんだ。
そういう事にしておけば、父さんのエレーナに対する見方も変わるだろう。
これ、姉さんの受け売りだけどな」
慎一は、エレーナにそっと耳打ちした。
診断の結果、和江は、慢性胃潰瘍で手術をする事になった。
総一郎は、仕事を抜け出して来ていたので、医師の診断を聞いて、帰って行った。
それから、慎一、エレーナ、さやかは、3人で和江に付き添った。
重苦しい空気が漂う病院の廊下、3人は言葉を交わすこともなく、
和江の手術が終わるのを、ただひたすら待ち続けた。