幸せになろう

私が本当に欲しかったのはお金じゃないのに」
「だったら、どうして父さんのいいなりになってまでついて行ったんだ」
慎一は納得がいかない。
「それでも総一郎さんが好きだから、嫌われたくないから、黙ってあの人の言う通りにしてきた」
和江はさやかを見てこう言った。
「さやかは覚えていないと思うけど、貴方が産まれた時、あの人はすごく喜んでくれた。
私は、そんな昔の総一郎さんに戻って欲しい」
和江は涙を流した。
「母さん……」
そんな和江の姿に、さやかも辛くなった。
「さやか、慎一、今まで本当に御免なさい。私のせいで辛い思いをさせてしまったね」
だが、慎一は、自分の身の上しか話さない和江が許せなかった。
「俺が今まで、どれだけ苦労してきたと思っているんだよ。
そんな事を言うためにわざわざ帰ってきたのかよ」
 慎一は過去を振り返った。
「姉さんの死後、俺は一人になった。しばらくは、家にあった蓄えで生活出来た。
だが、叔父さんに手伝ってもらって計算したら、中学を卒業する頃には、
金が尽きることが分かった。だから、俺は飯も食わずで頑張った。
高校は、トップクラスの成績で合格すると入学金、授業料が免除になる学校を選んだ。
トップでなければ、合格しても辞退するつもりだった。
俺は猛勉強した。幸いトップで合格して、授業料免除になった。
 でも、それからが大変だった。
生活費、将来の大学進学費用を貯めるためにバイトをした。
学校の勉強と、バイトの二重生活はきつかった。でもそうするしかなかった。
 その頃、付き合っていた娘がいた。しかし、俺は勉強とバイトにひたすらあけくれ、
彼女と遊ぶ暇もなかった。そしたら振られた。
理由は、俺といてもつまらないからだった。
その時俺は、貧乏人は彼女すら出来ないことを思い知らされた。
修学旅行にすら、一度も行った事がない。
大学に受かったが、入学金が払えずに困った。幸い叔父さんが援助してくれたので助かった。
大学でも勉強とバイトに明け暮れた。楽しそうに遊んでいる友人達が羨ましかった。
俺も普通の学生生活を送りたかった。
なんとか卒業し、就職、そのはずだった。
だが親の保証が得られないとの理由で、内定取り消しになった。
別の会社に就職したが、経営不振ですぐにリストラされた。
あとは、バイトで食いつなぐしかなかった。だが、バイト先でもうまくいかなかった。