慎一が片付け物をしていたら、1枚の写真が出てきた。
「この写真の人達は?」
「子供の頃の俺と、幼なじみの斉木綾香ちゃんだ」
「綾香さんってどんな子だったんですか?」
エレーナは綾香に興味を抱く。
「昔、近所に住んでた子で、いつも一緒に遊んだ。
確か、小学校の頃だった。彼女は、親の都合で急に引越しが決まったんだ。
引越しの日、俺は学校があったから、彼女にお別れが言えなかった。
それっきりさ。今から10数年も前の話だ」
「心残りですか?」
「うん」
「その願い叶いますよ。今からでも、彼女にお別れしに行きませんか?」
「そんな事が出来るのか?」
「はい」
エレーナの服が変わった。白い天使服。慎一と出会った日に来ていた服だ。
そして、大きな白い羽を広げた。まぶしい光が慎一を包んだ。

 慎一は、ゆっくりと目を開けた。
自宅の前だ。それにしてもやけにでかい家だな。
あれ? 体が……
気がつくと、慎一は小学生の体になっていた。
「どうなっているんだ?」
少し歩いた。どこか懐かしい風景。いつも見慣れているはずなのになぜか違う。
このアパート、確か解体されたはずじゃ?
ここの空き地に建っていたはずのマンションがない。
まるで、慎一が小学生の頃の風景だ。これはどういうことだ?
「10数年前の綾香さんが引越した日に時間を戻しました」
エレーナが飛びながら慎一に話しかける。
「そういうことか。だから、俺の体や町並みが昔の姿に戻ってしまったんだな」
しばらく歩くと、綾香の家の前まで来た。
引越しの作業中だ。家の中から綾香が姿を現した。
「綾香さんにちゃんとお別れしてあげて下さいね」
そう言ってエレーナは姿を消した。
「あっ、宮原君、来てくれたんだ」
「うん」
「でも、宮原君学校あるでしょ?」
「君にきちんとお別れ言いたくて、学校休んじゃった」
それから、出発の時刻まで2人でたくさんの思い出話をした。
だが、綾香は元気がない。転校することがすごく不安なのだ。彼女の気持ちを察した慎一は、
「綾香ちゃんなら、新しい学校でもきっと友達出来るよ。だから元気出せよ」と、励ます。
そんな慎一に綾香は、ややうつむきながらこう言った。
「宮原君は、私がいなくなったら寂しくない?」
綾香はそっと顔を上げた。そして慎一を見つめた。
その瞳はどこか遠くを見つめるように寂しげではかない。
「寂しい。でも俺、また逢えるまで我慢するから」