私はようやく、速水さんの力で元の躰に戻してもらった。



まさか、生きた躰で冥界に来るなんて…



亜希緒さんはこの状況に全く動じず、普段の生活通りに、悠樹君を寝かしつけに寝室に篭った。



私は眠れず、回廊で一人、佇んでいた。
決して明けない冥界の空。
月も星もなく、漆黒の闇のビロードが空一面を覆う。
中庭と思われる場所にも、草木一本の生えていない。空虚な場所。


心も虚無感で満ちていた。




「こんな寂しい場所で悪いな…」



冥府神と天狗の力を手に入れた速水さんが私の前に立つ。



彼の瞳と同じような深紅のピジョンブラッドのブローチで首元のブルーグレーのスカーフを留め、袖口と襟に紫紺のラインで縁取られた丈長の豪奢な漆黒の衣装を纏っていた。



背には天狗の証、大きな二つの黒い翼。


「そんなコト…」