コイツが無断で、金庫から『呪いのエンゲージリング』を盗み、花奏の薬指に嵌めたりしなければ・・・


「肩も凝ってれば、揉みますが…」


「余計な心遣いは無用だ…爽爾」


「でも・・・」


爽爾は俺の拒絶に、難色を示した。


「じゃあ~俺はどうすればいいの?」


爽爾の瞳にはウルウルと涙が溢れる。



「どうって・・・」


コイツに八つ当たりしても、花奏の意識が戻るワケでもなくて。


でも、爽爾を見ていると、怒りがこみ上げてくる。



「花奏の力を信じるしかないだろ?」


「それもそうだね」


俺はポンとガクリと落とした爽爾の肩を叩き、慰める。

『紅月』の魂を躰に喰らい、その存在に気づき、ヤツの力を覚醒させた時から…俺は本物の妖となった。


妖狐の純血種の爽爾を心から憎めなかった。

同じ妖だから。