スマホの画面に菊池恵吾の表示。

オレの唯一の親友である。

でも、夜型のアイツがこんな朝早くに電話をよこすなんて珍しい。

雨か雪でも降るのだろうか。

よっぽど伝えたい笑い話でもあるのかな。

「もしもし」

「もしもし! シンジ起きてたか?」

「声聞きゃわかるだろ。とっくに起きてるよ」

混線してるのか、妙な雑音が耳障りだ。

なぜか公園で目覚めたことを告げようとしたが、その機会を恵吾が奪う。

「おまえ、ニュース見たか?」

「ニュースって?」

「綾乃ちゃんが澤口鉄平のアホンダラと結婚したらしいぜ」

「そんなのとっくに知ってるよ」

「へえー。いつ知ったの?」

「いつって、あの悪夢の知らせからもう1年になるだろう」

「えっ、そんな昔から二人はデキてたの? さっきのワイドショーじゃ、知り合って3ヶ月のスピード入籍って騒いでたけどな」

「・・・なあ恵吾」

「ん?」

「今って西暦何年だ?」

「なんだよ、話題変えんなよ。で、なんで二人が付き合ってるって話、前から知ってるわけ?」

「・・・」

「テレビ業界に知り合いとかいるんだっけ?」

「・・・」

「なあ、何とかいえよ」

「そんな話、どーでもいいよ」

「そんな落ち込むなって」

「だから今、西暦何年だよ!」
つい怒鳴り声をあげてしまった。

恵吾は一瞬静かになったあと、渋々といった口調で答えた。
「○○年に決まってんだろ」

「・・・」
奴が口にした年号は1年前のものだった。

「みんなで寄ってたかってオレをからかってるわけじゃねえよな」

「なんのことだよ。今日のおまえ、なんか変」

「・・・」

マジかよ!?

オレは昨晩から今朝にかけて、とてつもなく長い旅をしてしまったみたいだ。