「家族なんだもん、これくらいはやるよ」

そう言うと、お母さんは瞳を潤ませた。

繰り返しになるけど、本当にいい子ぶってるわけじゃないんだ。

あれからもう何年も経つのかー。

時の流れとは、それはそれは恐ろしいものだ。

いつしか私の手料理を味わう相手は、弟から恋人へと変わった。

フライパンや包丁を手にしてる間は、素直な自分に帰ることができた。

さて・・・

今晩シンジは自慢のカレーを食べてくれるのかな。

ご飯が炊き上がったことをブザーが知らせる。

鍋の火をとめ、キッチンテーブルに突っ伏してシンジからの連絡を待った。

フタのすき間から飛び出すルーの香り。

ねえねえ、おいしいうちにボクを食べてよ。

そんな訴えが聞こえてきそうだった。

しかし、それが叶うときはしばらく訪れそうになかった。