出会う前のキミに逢いたくて

アイツからの着信に気づく。


路地に入り、スマホを耳にあてた。


「わりぃ。電話出られなくて」


「明日の夜会えないかな?」


「夜かぁ」


「借りてたCD返そうと思って」


友達に借りたヤツを又貸ししてるのでいつでもいいというわけにはいかない。


「うんと遅くなるけどそれでもいいなら。でも睡眠不足は体に毒だろ」


「まあそうだけど・・・残業でもあるの?」


「まあ残業といえば残業だけど・・・」


バイトのことはきちんと話しておこうと思った。


アイツの知らないところで金を工面し、墓場まで持ってくのが格好いいんだろうけど、オレたちの関係を考えたら隠し事は不可能だ。


『毎晩どこほっつき歩いてるのよ。まさかこの期に及んで浮気?』なんて変な疑いかけられるのはごめんだし。