それから10年という歳月が流れた。


その途中のどこかでオレもみなと同じように、社会の一員として受け入れてもらう代償として個性を差し出した。


猛牛が角を切られるように・・・


しかし、それを残念に思うことはなかった。歯車になることがそんなに悪いことなのか。歯車上等。健康で、人並みに幸せでいられるなら歯車でも十分じゃないか。


そんなある日。


「もしもしアタシ」


その日に限ってアイツの声はか細かった。


スマホを耳に押し当ててようやく聞き取れるくらいに弱弱しい。


オレはオヤジのコネで吹けば飛ぶような規模の商社に勤めていた。


無論、こんなご時世だから薄給で、読みは「ショウシャ」だけど決して「勝者」じゃない。


その日は休みで、暇つぶしにビンゴゲームでもらったジグソーパズルと格闘していた。


台紙の中の古城はまだ三分の一も建設が進んでいない。


落成までかなりの時間を要しそうだ。


どんよりとした声でアイツはこう打ち明けた。


「心配かけたくなかったからナイショにしてたけど、アタシここ数日体調悪くて」


「元気だけが取り柄のくせにか」


「うん。ずっと微熱が続いちゃって」


「だからオレの誘いを断り続けたんだな。ディズニー映画も肉フェスも世界最大級の恐竜展も」


「爬虫類フェスティバルもね」


「とことん人生の喜びを不意にしてるな、オマエ」


「で、この前検査受けたんだ」


「ほう」


「今日も病院に来たの。結果聞きに」


「で、なんだって?」