マサキが初勝利をあげた日の夜。


わたしは自宅のリビングにいた。


もちろん、球場で応援したかったけれど身体がそれを許してくれなかった。


子どもを授かっていた。


まだそれほどおなかは目立っていないけど。


ヒーローインタビューのときはとにかく涙が止まらなかった。


ティッシュ一箱分をまるまる使いきってしまう勢いで涙がこぼれ落ちた。


つらかった日々を自然と思い出す。


すべてのはじまりは、ある日、大学にかかってきた一本の謎の電話だった。


半信半疑で病院に行ったら病気が見つかったこと。


2人で絶望したこと。


それでも前を向こうと励まし合ったこと。


十時間以上に渡る大手術にマサキが耐えたこと。


手術が成功したこと。


お医者さんに「ひとまず安心してもらって構いません」といわれ、心の底からほっとしたこと。