一度自分をオフにしないと心のバランスが保てない気がしたからだ。

それが原因なのかよくわからないけど、オレは次の朝、目覚めると、1年前の時代に戻ってしまっていた。

もちろん、最初は信じられなかった。

誰かが仕組んだ悪い冗談かと思ったけど、全人類がオレを騙すために超大掛かりな、巨大スペクタクルの芝居を打つとは思えない。

結局、消去法により、タイムスリップしてしまった現実をストレートに受け入れるほかなかったのだ。

よしよし、もう大丈夫。

やっと勧誘が隣の部屋にターゲットを移してくれた。

さよなら、スッポンさん。

チャイムの音が薄い壁を通して、左から漏れ伝わってくる。

でも、残念だけど、そこは留守だぜ。

住んでいるのはクマみたいな毛むくじゃらの、ガタイのいい若い男だ。

老けては見えたけど、恐らくどこかの大学生なんじゃないのかな。

彼は昼前に部屋を出ると、茶色いパーカーにジーンズというありふれた格好で、黒いカバンを斜めがけして駅の方へ向かった。