「ご注文はお決まりですか?」

わたしはようやくカフェのバイトを再開した。

精神的なゆとりがなくて、ずっと休ませてもらっていた。

マサキにとっても、わたしにとっても、今がすごく重要な時。

物理的なゆとりもそうだけど、できるだけ精神的な余力を残しておきたい。

そう考えたから。

けど、現実に向き直ると働かないわけにはいかない。

家賃の滞納なんてみっともない。

食欲がないとはいっても、何も食べないのは体に毒。

親に借金するわけにもいかないし。

3日ぶりに着慣れたエプロンに袖を通し、コーヒーと煙草の香りに包まれた聖地に戻ってきた。

「マスター、ホットコーヒーを1つお願いします」

「了解!」

オーダーを伝えると、カウンターの奥でマスターがにっこりと微笑んだ。