「私、大丈夫かなあ…」

リビングにいる翔と礼央の背中を見ながら、絵理香は思わずつぶやく。

たまに翔は出張で家を留守にすることがあった。

海外だと一週間、長ければ二週間は帰ってこない。
そしたら、その間、礼央と二人きりだ。それも心配だった。

礼央の好物を、と絵理香が作った夕飯のハンバーグを三人で食べながら、翔が礼央に言い聞かせる。

「これからは三人が家族になって、仲良く暮らすんだよ。」

礼央はうんとうなづく。

礼央にとって父である翔は絶対的な存在なのだろう。
そんな礼央の様子を見て、絵理香は微笑ましく思った。

「あれ?礼央、顔赤くない?」

急に翔が言い出した。
絵理香はさっきから赤いと思っていたが、子供はそんなものかと思い、言わなかった。
よく見ると好物のハンバーグもあまり食べていない。

熱を測ると三十九度もあった。

初日から問題発生だ。

午後7時を過ぎ、電話帳で調べた小児科も終わっていた。

夕飯は中断して車で三十分の時間外の小児救急に向かう。

一時間待って診察の番が回ってきた時、なんと礼央の熱は三十七.七度に下がっていて、翔と絵理香は
「この程度の熱で救急にくるなんて!」と医者から怒られてしまった。

翔が出張中にこんなことがおきたらどうしよう…
帰りの車の中で本気で絵理香は怯えた。

礼央が極度に緊張すると熱が出やすい体質だと知ったのは、ずっとあとのことだ。


突如、嵐が来たかのように絵理香の生活は猛烈に忙しくなった。

まず、礼央を今までの幼稚園から、こちらの保育園に転園させた。

必要なものを買い揃え、買ったもの全てに名前を書く。
布団カバーを縫い、車で十五分の毎日の送り迎え…給食があるのが救いだ。
何もかもが礼央中心の生活。

翔も協力的ではあったが、二十八歳の男の仕事は忙しい。
どうしても絵理香がやることになってしまう。

もう翔と二人だけだった時のようにコーヒーマシンでラテなんて入れてる場合じゃない。

あともうひとつの大問題。