小樽ガラスの店内は、ライトの光がガラスに反射し、まばゆいプリズムの洪水だった。
ワイングラスを選び始めるが、品数が多く、迷ってしまい、選びきれない。

「これはどう?」

気になったグラスを指差し、翔に尋ねる。
翔が何をいっても絵理香はなかなか決断出来なかった。

「俺はこれが好きかな。」

見兼ねた翔が青と透明のグラデーションで気泡の入ったグラスを指差した。

それは北国の雪と空をグラスの形にしたような美しいグラスだった。
絵理香は一目で気に入った。

「あ、それいい。やっぱり翔は趣味がいいね。」

「そうだろ。」得意気な翔。

そんな会話をしながら、会計に向かおうとした時だった。

「ガシャーン!」
と派手にガラスの割れる音がした。

店内の客達が一斉に音のした方を見る。

そこには礼央が立っていて、足下には粉々に割れたガラスが散乱していた。

翔は、素早く礼央の元へ駆け寄り
「大丈夫か?」
と聞いた。

礼央は強張った表情のまま、何も答えない。
店員が箒と塵取りを持ってきた。
「お子さん、お怪我ないですか?」

「大丈夫です。すみません。うちの子が割ったみたいで。弁償します。」

翔が店員にそういうと、礼央は顔を真っ赤にして、泣き出した。

「俺は割ってないもん!」

そういうと礼央は店の外に飛び出してしまった。
翔も礼央を追いかけた。
もう買い物どころじゃない。
慌ててグラスを棚に戻し、絵理香も二人を追いかける。

店の外にいた礼央はうずくまり、しゃくり上げながら、泣いていた。
行き交う人が何気とかと視線を投げる。

「礼央、割ってないんだって。礼央の近くにいた女の人が触って落としたんだって」

翔が絵理香にいった。
絵理香が礼央を慰める言葉を探していると、礼央は急に顔を上げ、泣き顔のまま絵理香を睨んだ。

「お母ちゃんがいつまでも迷ってて早く決めないからだよ!」

絵理香はたじろいだ。

「そうだな。早くすればよかった。礼央災難だったな」

絵理香は唖然とした。
翔は自分を庇ってくれるかと思ったが、とんでもなかった。

礼央の号泣はいつまでも続いた。