<伊織SIDE>
「たっだいまー」
ふぅ、英兄に話聞いてもらえて良かったぁ…。
英兄は昔から本当に優しいな。
私が泣いてたら泣き止むまで一緒にいてくれたし、困ってる時にいつも側にいてくれるのは英兄だった。
「英兄が本当のお兄ちゃんなら良かったのにな」
自分の部屋に入ってぽつりと呟く。
っとと、いけない、いけない。
これは言っちゃいけないんだった。
英兄の前じゃなくてよかったよ…。
でなきゃ…。
小さい頃一度だけ英兄に今の言葉を言った事がある。
ただ純粋にそう思ったから。
だけど…。
英兄はその言葉を聞いた瞬間―。
『そっか…』
今まで見た事もないくらいにすごく、すごく悲しそうな顔でそう言った。
理由はいくら考えても解らない。
だけど、それからその言葉は絶対に言わないようにしてる。
…お兄ちゃんみたいとは言っちゃったけど。
そういえば英兄にさっき言ってない事が一つある。
みんなに英兄の事、お兄ちゃんみたいな存在って言った時違和感を覚えたの。
『どうして英兄は本当の妹でもない私にあんなに優しくしてくれてるのか』
そんな疑問が頭に浮かんだ。
何かすごく大事な事のような気がする。
だけど分からない。
英兄に聞いたら楽なんだろうけど、それでまたあの顔をするんじゃないかと思うとどうしても聞けない。
「う~~~ん…」
はぁ、もういいや…。
いつか分かる時が来る…よね? この後、すぐに考えるのを諦めてしまった私はすぐに眠りに就いた。
―この疑問が後々、とても大事な事になってくるとは知らずに。