無情な鐘の音によって、誰にも気づいてもらえることもなく、神谷の一目惚れは終わった。


「はぁ……
 じゃー 今日は終わりー
 面倒事は起こさず帰れよー」

「「「「「はーい」」」」」


春風が席に戻らず黒板に神谷の似顔絵を描いていると、後ろから春風を呼ぶ声がした。


「春 帰ろうか」

「えー」


振り返るまでもなく、聞こえてきた声は生まれてからずっと一緒に居た彼の声で、春風は文句を垂れながらも自然と頬が緩むのを感じた。
そんな春風の横顔を見て、神谷はまた溜め息をつく。


(……だいひょーのこんな表情は俺には引き出せないなぁー)


自分の半分しか生きてない少女に一目惚れして、10分で想いに確信を得た途端に振られる。告げることすら叶わずに。
神谷は自分の不運を恨みつつ、声の主に話掛けた。


「よー わかめくん
 だいひょーはお絵かき中ですよー」

「わかめ…… 構いませんけどね……
 ああ、先生
 春の似顔絵、上手でしょう?
 ……先生のこと、随分と気に入ったみたいですね」

「はぁ?」

「春は、絵があまりね、上手くないんですよ
 でも人のことはよく見てるんで、気に入った人ほど似顔絵が似るんです」


ちらりと黒板に目を向ければ、確かに誰が見ても神谷だと言うだろう絵が出来上がりつつあった。
特徴をよくとらえている。
少しだけ、救われた気がした。

ほんの 少しだけ
自分の過ちを嫌になれないくらいには