入学式。
彼らは揃って登校した。
身長175センチの彼はすらりと無駄なく引き締まった細身で、女子生徒の目を惹いた。
身長140センチの彼女は年齢に釣り合わない小柄すぎる体格と、愛らしい笑顔で男子生徒の目を惹いた。

男はまるで若布のようだと比喩されてきた真っ黒な髪の毛を目が隠れない程度に左手で後ろに流し、空いた右手で彼女の手を引くと【新入生受付】に辿りついた。


「井上多岐と九積春風です」


受付をさっさと済ませ、新入生の花を二本受け取ると一本は自分の胸ポケットに、もう一本を春風の胸ポケットに挿した。
新たな門出を祝うに相応しい鮮やかな花。

男、否、多岐は再び春風の手を取ると迷いなく体育館へ向かっていった。
残された教員在校生新入生もろもろは、今の光景にしばし呆然としていたという。
ただの恋人同士だったのだろうか?
いや、二人を見た限りそのような空気感はなかったように思う。
では身長差からくる子供扱いか?
それにしては春風の方に不愉快、といった色は見えなかった。
不思議な 不思議な なんとも言えない空気感だった。
お互いになんでも分かりきっている、そんな まるで熟年夫婦のような……

残された人々がそんなことを話しているとは露にも思わない二人は、受付で確認した通りにクラスの席に向かう。
当たり前のように同じクラスで、初め、ということで名簿は無視してよいと言われたので、二人はまた当たり前のように隣に腰を下ろした。

座ると同時につないでいた手はほどけ、それぞれの膝に納まる。
途端に眠くなったのか、頭を多岐の方へ倒してきた春風が寝やすいように体をずらし、春風の寝息が聞こえると多岐も静かに目を閉じた。

あとは入学式が始まるのを待つばかりである。